武富士事件について 3

5 最高裁の判断
 これに対し,最高裁は以下のような理由から,武井俊樹氏の住所が当時国外にあったと認定し,贈与税は賦課されないと結論付けました。

 

 法的な意味における住所については,民法21条が規定を置いています。
 民法21条にいう住所は,客観的に生活の本拠たる実体を具備している場所と解釈されています。
 本件のような,相続税法上の住所の解釈においても,特段の事情がなければ,民法21条と同様に,客観的に生活の本拠たる実体を具備している場所はどこかによって判断するべきです。

 そして,本件では,香港での滞在日数が国内での滞在日数の2.5倍に及んでいること,香港での業務に従事していたことなどの,客観面から判断し,当時の武井俊樹氏の生活の本拠は香港であると認定しました。

 

 最高裁は,武井俊樹氏には贈与税の負担を回避する目的があったことにも触れているものの,住所が客観面から判断されるものである以上,そうした目的よりも客観的な生活実体を重視するべきであるとも述べています。

 

6 現行法
 贈与が行われた翌年である平成12年の租税特措法の改正により,受贈者を国外に滞在させる手法を用いた贈与税の回避は,制約されることになりました。
 そして,平成15年法律第8号により,相続税法は以下のような規定に改められました。

 

① 財産取得時に受贈者の住所が国内にあるとき(現行相続税法1条の4第1号)
  財産のすべてが贈与税の対象となる。

 

② 財産取得時に受贈者の住所が国外にあるとき(現行相続税法1条の4第2号)
  日本国内にある財産だけが贈与税の対象となる。
  ただし,次の全ての要件にあてはまる場合には,日本国外にある財産についても贈与税の対象となる。
  イ 贈与時に日本国籍を有していること
  ロ 贈与者または受贈者が,贈与前5年以内に国内に住所を有していたことがあること

 

 本件でも,仮に改正相続税法施行後に贈与が行われていれば,贈与税が賦課されることになったはずです。

 その意味で,立法的対処が遅きに失した例であるということができます。