相続の費用
1 相続手続きにかかる費用
相続手続きにかかる費用としては、手続きに際して必ず必要となる費用、手続きを専門家に依頼した場合に必要となる費用に大きく分けられます。
手続きに際して必ず必要になる費用は、手続きを行う財産によって異なります。
また、手続きを専門家に依頼した場合に必要となる費用については、どの専門家に依頼するかによって異なります。
かつては、弁護士、司法書士、行政書士等、専門家の種類によって、費用の決め方が異なることもありましたが、近年では、専門家個人ごとに、それぞれ独自の基準で費用を決めるようになってきています。
2 手続きに際して必ず必要となる費用
- ⑴ 不動産
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不動産については、法務局において登記の手続きを行う必要があります。
登記に際しては、登録免許税が課税されます。
相続登記の場合は、不動産の最新年度の固定資産評価額の0.4%、遺贈の登記の場合は、相続人が取得するときは不動産の最新年度の固定資産評価額の0.4%、相続人以外が取得するときは不動産の最新年度の固定資産評価額の2%を基準に課税されることになります。
なお、税制改正により、一定の相続登記または遺贈の登記については、2025年3月31日まで登録免許税の免税措置がとられています。
また、登記に際しては、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の現在の戸籍等、相続関係を明らかにする戸籍を提出する必要があります。
これらの戸籍を取得するに当たって、1通当たり450円から750円の費用を支払う必要があります。
- ⑵ 預貯金
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預貯金の払戻しについては、基本的には、多額の費用負担が生じることはありません。
払戻しに際し、解約手数料等が発生することが多いですが、1件あたり何百円かの費用負担に過ぎないことが多いです。
預貯金の払戻しに際しても、戸籍を提出する必要がありますので、新たに戸籍を取得する場合には、1通当たり450円から750円の費用を支払う必要があります。
- ⑶ 有価証券
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被相続人名義の有価証券については、相続人の誰かに名義変更する手続きをとるか、売却し、売却代金を払い戻す手続きをとることとなります。
売却にあたっては、証券会社に対して手数料を支払う必要があります。
また、売却の対象となる株式が、単元株が定められた株式であり、単元未満の株式数で売却する必要がある場合には、売却時の手数料が加算されることとなります。
有価証券の手続きについても、戸籍を提出する必要がありますので、新たに戸籍を取得する場合には、戸籍を取得するための費用が必要になります。
3 手続きを専門家に依頼した場合に必要となる費用
相続の手続きを専門家に依頼した場合には、専門家に対して費用を支払う必要があります。
かつては、おおむね、司法書士や行政書士については、作成した書類の分量等により手数料を負担することとなり、弁護士については、取得する遺産の評価額等に基づき、着手金、報酬金を負担することとなる傾向がありました。
しかし、近年では、案件次第で、司法書士や行政書士であっても、遺産総額の何%という形で費用を定めたり、弁護士であっても、作成した書類の分量等により手数料の負担としたりする例も増えてきています。
こうした費用の基準は、専門家個人で異なりますので、依頼する前に、費用の算定方法等を確認するのが望ましいでしょう。
4 相続手続きについてのご相談
私たちは、岐阜の相続手続きの案件を広く取り扱っています。
当事務所は、岐阜駅北口から徒歩3分、名鉄岐阜駅から徒歩2分のところに事務所を設けておりますので、相続手続きの件でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
相続の承認・放棄
1 相続の選択
民法は,被相続人の権利義務は,相続開始と同時に相続人に承継されると定めています。
しかし,債務もれっきとした遺産ですから,相続人は債務もまた承継することになります。
債務が多額である場合は,相続人は遺産を承継することを望まないかもしれません。
そこで,民法は,負債を含めた遺産を承継するかどうかを,相続人の自由な選択にまかせることにしています。
この内,負債も含めた遺産を全面的に承継することを単純承認,相続したプラスの資産の範囲内で債務等の責任を負うことを限定承認,遺産の承継を全面的に否定することを相続放棄と呼びます。
2 熟慮期間
⑴ 熟慮期間とは
放棄や限定承認を行うためには,自己のために相続があったことを知った時から3か月以内に,家庭裁判所において放棄や限定承認の申述をする必要があります。
この期間のことを,熟慮期間といいます。
熟慮期間内に放棄や限定承認の申述が行われなければ,相続人は,単純承認したものと扱われ,債務を含めた遺産を承継することになってしまいます。
⑵ 民法の規定
熟慮期間は,自己のために相続の開始があったことを知った時から起算して3か月間と定められています。
「自己のために」開始があったことを知った時からですから,例えば,先順位の相続人が放棄したことを知らなかった場合や,法律を誤解し,先順位の相続人がいると信じていた場合は,後順位の相続人は,実際は自分が相続人であると知った時から3か月間,放棄や限定承認を行うことができます。
遺産の調査の期間が3か月では足りない場合は,相続人は,家庭裁判所に熟慮期間の延長審判の申立てを行い,熟慮期間を延長してもらうことができます。
被相続人の住所地または相続開始地が三重県内であれば,津家庭裁判所において期間延長審判の申立てを行うことができます。
なお,相続人が未成年者や成年被後見人である場合は,法定代理人が相続の開始を知った時から起算します。
⑶ 熟慮期間経過後に多額の債務の存在が判明した場合
実際には,被相続人が亡くなった時点では,遺産の全容が明らかになっておらず,熟慮期間経過後に多額の負債があることが判明することがあり得ます。
特に,被相続人が家族に知らせることなく個人保証を行っていた場合は,債権者からの請求があって,はじめて保証債務の存在が明らかになることも多いでしょう。
このような場合も,民法915条を読む限り,自分が相続人になったことを知った時点から熟慮期間が進行し,たとえ熟慮期間経過後に被相続人に多額の負債があったことが明らかになったとしても,熟慮期間が経過している以上は放棄をすることはできないということになりそうです。
しかし,このような結論は,債務が存在しないと信じていた相続人にとって,酷な結果を招きかねません。
そこで,相続人の保護を図るために,以下のような判例法理が展開されています。
昭和59年に,最高裁は,遺産が全く存在しないと信じ,かつ,そのように信じることについて相当な理由がある場合は,熟慮期間は,相続人が遺産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識できる時から起算するとの判断を行いました(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。
それでは,一部の遺産の存在については知っていたが,多額の債務があることを知らなかった場合はどうでしょうか。下級審では,遺産の一部を知っていたが,遺産分割後に,被相続人に4400万円を下回らない連帯保証債務があることが明らかになった事案で,熟慮期間経過後の放棄の申述を認めた例があります(大阪高決平成10年2月9日家月50巻6号89頁)。
ただし,自分で被相続人の債務の調査をせず,漫然と積極財産の方が多いと考えて遺産分割協議を行ったような場合には,熟慮期間経過後の放棄の申述が認められていません(大阪高判平成21年1月23日判タ1309号251頁)。
他方,一部には,熟慮期間経過後に多額の債務の存在が明らかになった事案で,放棄の申述を認めなかった下級審の裁判例もあります(高松高決平成13年1月10日家月54巻4号66頁)。
このように,下級審は昭和59年の最高裁判決の考え方を拡張していく傾向にありますが,個別の事案についてはどのように判断されるかが明確でない場合も多く,弁護士に相談した方が良い場合が多いでしょう。