武富士事件について 2

3 旧法の規定
 本件においては,贈与の対象となった財産が国外財産であることは明らかです。
 そして,武井俊樹氏は,贈与当時,香港で勤務し,生活していたのであり,国外を住所としていたのであるから,旧相続税法の規定(旧相続税法1条の2)によれば,贈与税は賦課されないと主張しました。

 

 これに対し,国税当局は,贈与当時,武井俊樹氏が香港で生活していたのは,住所地が国外であると装うことによって,贈与税(引いては相続税)の負担を回避するためであり,真の住所地は国内であったとして,旧相続税法の規定によっても贈与税は賦課されるとして,追徴課税に踏み切りました。

 

4 一審,二審の判断
  一審は,武井俊樹氏が,贈与前後の期間において約65%を香港で過ごし,業務活動も香港が中心であったことなどから,住所は国外であったと認定し,旧相続税法1条の2により,贈与税は賦課されないと結論付けました。

 

 これに対し,二審は,自宅の家財道具がそのまま国内に残されていたこと,家族が国内にとどまっていたこと,月に一度は帰国していたこと,資産のほとんどを移していないことなどから,香港が生活の本拠だったとは言えないとし,旧相続税法1条の2により,贈与税は賦課されると結論付けました。

 

 二審は,居住地の認定に当たっては,単に滞在日数が多いかどうかによって判断すべきではないとの最高裁判例を引用しています。
 本件では,国内での滞在日数が多すぎないように日程調整をするなど租税回避目的があったことなどを考慮し,香港は生活の本拠であったということはできないとしました。