武富士事件について 1

1 武富士事件とは
 消費者金融武富士の元役員である武井俊樹氏に対する課税処分の当否が争われた訴訟です。

 

 国税当局は,贈与税の申告漏れがあったとして,武井俊樹氏に対し,無申告加算税を含め,約1,330億の追徴課税を行い,武井俊樹氏はこれを争い,取消訴訟を提起するに至りました。
 一審は,武井俊樹氏の主張を認め,追徴課税処分を取り消す判決を言い渡しました。
 しかし,二審は,一審判決を覆し,武井俊樹氏敗訴としたため,武井俊樹氏は,延滞税を含めて約1,600億円を納付しました。 

 
 武井俊樹氏は上告し,平成23年2月18日に最高裁で判決の言い渡しが行われました。
 最高裁は,二審判決を覆し,追徴課税処分を取り消す判決を言い渡しました。
 これにより,武井俊樹氏には,還付加算金(利子に当たるもの)を含めて約2,000億円が還付されました。

 

 この事件は,相続税法上申告漏れが争われた事件としては,金額が史上最高額のものであり,還付加算金も巨額に上ると予想されていたことから,最高裁がどのような判断を下すのか,世間の注目を集めていました。

 

2 事案の概要
  武井俊樹氏は,消費者金融武富士の創業者である故武井保雄氏の長男です。
  武井俊樹氏は,平成9年6月に,武富士香港法人代表として出国しました。
  武井俊樹氏は,家族を国内に残し,家財道具も国内に置いていたものの,贈与前後の3年半のうち,65%の時間を香港で過ごしていました。

 

  平成11年12月,故武井保雄氏は,香港に滞在する武井俊樹氏に,オランダ現地法人の株式の90%を生前贈与しました。

  この生前贈与につき,武井俊樹氏が贈与税の申告を行わなかったとして,国税当局が追徴課税処分を行うに至ったのです。

 

3 旧法の規定
  武井俊樹氏に対して贈与が行われた当時は,相続税法は,以下のような規定になっていました(平成15年法律第8号による改正前の相続税法)。

 

① 財産取得時に受贈者の住所が国内にあるとき(旧相続税法1条の2第1号)
  財産のすべてが贈与税の対象となる。
② 財産取得時に受贈者の住所が国外にあるとき(旧相続税法1条の2第2号)
  日本国内にある財産だけが贈与税の対象となる。

 

 つまり,贈与時に,受贈者の住所と贈与の対象となった財産がともに国外にあった場合には,①または②に該当せず,贈与税が課税されないということになっていたのです。